ロシア最大手銀行「ズベルバンク」副頭取、全ロシア中小企業家連盟「オポラロシア」理事長を務めるセルゲイ・ボリソフ氏が2013年7月および11月に来日。本誌は、7月20日、11月27日に独占インタビューを行った。

※本取材は平成25年7月から11月にかけて行われたものです。(本誌1号掲載)

ソ連ではなくロシア

日本でロシアとの関係を議論する場合、いまだにソ連を研究してきた専門家が幅を利かせているが、重要なのは、相手にするのが「ロシア連邦」であって、「ソビエト社会主義共和国連邦」ではない、ということだ。ロシア連邦とは一体どういう国なのか。それを知らなければ、日ロ関係を語る資格はない。

ドイツと日本

新しい世代としての責任、それを常に意識しなくてはならない。歴史は忘れてはならない。しかし過去のうらみつらみは捨てるべきだ。歴史的事実は事実として認める。しかしそれが今の新しい生活を乱すことがあってはならない。なぜなら我々は今の問題に取り組んでいるからだ。

ロシアは第二次世界大戦中、ドイツとの戦争で史上最大の犠牲を払った。2000万人という犠牲の記憶は、いまでもその時代を生きたロシア人の心に生々しく残っている。ただ、今のロシアとドイツの関係に当時の感情は一点の陰りもおとしてはいない。それで当り前なのだ。我々は今の世代の利益、そして将来の世代の利益を考えなくてはならない。ロシアで販売が認められているドイツ製医薬品は8000、日本製医薬品はたったの20である。

欧米の本音と建前

それにしてもロシアという国ほど誤解されている国はない。日本の投資家がモスクワを訪問してまず驚くのが、ファンダメンタル指標の良さだ。それにも関わらず、なぜ三大格付け会社によるレイティングが低いのか。格付け会社は「政治的リスク」を挙げているが、いわいるG7というエスタブリッシュメントと、新しい資本主義国ロシアとの間にある利害の衝突を忘れるようでは、あまりにナイーブだ。

特に日本はあまりにもナイーブといえる。建前と本音、という文化が日本の専売特許のように語られているが、欧米諸国の建前をそのまま本音と取り違えているのが日本なのだ。旧ソ連地域、いわいるCIS諸国に対する欧米諸国の経済進出を見てみれば、それは一目瞭然だろう。ロシアに日本企業が進出しないことで利益を得るのは欧米企業だ。

ウィン・ウィンの関係

ロシアにとっても新しいノウハウが必要だ。ロシアにおける最大の問題は行政障壁でも汚職でもなく、人材の不足だ。素晴らしいアイディアがあっても、それをいかに商業化していくか、そのやり方を学ばなくてはならない。つまりロシア経済の脱資源化・多角化、いわいる「近代化(モデルニザーツィア)」のためには、先進諸国のノウハウ、そして最新技術が必要になる。先進国にとっても、ロシアという巨大な市場とアイディアの宝庫を獲得することは大きな魅力だ。ドイツがロシアに新幹線を提供するならば、日本もシベリア鉄道でできることがたくさんあるはずだ。 

ロシアにはドイツやイタリアの企業家連盟が大きな存在感を持っている。彼らはロシアの法律やその他の状況を分析して、自分の頭で考え、行動し、試行錯誤している。それは実はロシアの企業家のためにもなる。我々は彼らの意見に耳を傾けている。それには我々自身の計算もある。つまり企業家というのはお互いを一つの言葉で理解しあえる存在であり、海外の企業家と協力することで、ロシア国内、政府内での我々の発言力も大きくなる。

データ1 オポラロシア(全ロシア中小企業家組織連盟)「ロシアの柱」とは、主にロシアにおける中小企業の企業活動の発展と起業家の団結促進を目的に2002年9月に創設された。ロシア国内の中小企業数は、201万3000社、個人事業主が361万社で推移していが、そのうち40万社、従業員総数約500万人が属する企業が加盟している。

データ2 ズベルバンク(正式名称 ロシア貯蓄銀行)とは、ロシア中央銀行の出資により設立され、ロシア及び中東欧地域に於ける最大の商業銀行。ロシア国内に約2万箇所の支店をもつ。元々は、日本の郵便局にあたるズベルカッサという国営組織。ロシア国内で個人預金の約60%は、同行に預けられている。純資産総額は、約27兆円(ゆうちょ銀行は、約10兆円)みずほ銀行、北海道銀行などが同行と業務提携している。

BORISOV Sergei Renatovich(ボリゾフ・セルゲイ・レナトヴィッチ)

1953年12月26日生まれ。経済学準博士。1978年/バウマン記念モスクワ高等技術学校卒業、ハーバード・ビジネス学校、全ソ連海外貿易アカデミー卒業。1991年/オックスフォード大学留学。1997年/モスクワ燃料協会会長、1998年/ロシア燃料連盟会長、2002年/全ロシア中小企業家組織連盟「ロシアの柱」会長・ロシア連邦大統領附属人権委員会メンバー。2003年以降、連邦院中小企業支援評議会メンバー。2003年/ロシア産業家企業家同盟理事。2008年/中小企業発展政府委員会副委員長。2009年/「友好勲章」受章。2012年以降、全ロシア中小企業家組織連盟「ロシアの柱」監督評議会議長に就任。ズベルバンク副頭取(小規模ビジネス発展担当)

今後はロシアに進出することではなく、進出しないことがリスクだ