ここがわからん!「大阪都構想」
橋下市長が打ち出した大阪都構想の住民投票が、5月17日に迫っている。学生の中には、投票権を持つ学生もいるが、 各党の意見がてんでバラバラで、どの情報をどう咀嚼すればよいのかわからない。 そこで、この度、経済人・大阪維新の会会長の更家悠介氏に、大阪都構想の全容や疑問点を取材した。
※本取材は平成27年4月2日に行われたものです。(本誌3号掲載)
―そもそも、経済人・大阪維新の会はどのような組織でしょうか。
元々は、維新の会は「現状のままではまずい!」と考えた若手政治家が立ち上げたのですが、立ち上げに際して、維新の会だけで物事を進めてしまうと、行き過ぎてしまうといけない」「経済的な観点から助言を行おう」そういうわけで、経済人・大阪維新の会が発足しました。
具体的な活動としては、普段の政策に経済的な視点からの助言を行い、選挙の際には経済界の方々に理解をしていただくために情報提供を行っています。基本的には大阪を活性化させるために、地域に密着してシンポジウムなどを行ったり、我々から政治家に、経済政策の提言を行うこともあります。
―大阪都構想とは、端的に言えば何をすることなのでしょうか。
大阪都構想は、簡単に言えば、「大阪府と市の合併を行い、広域行政を一本化すること」「地域行政を住民に身近なものに再定義すること」「民営化すること」の三本の柱から、地域経済を活性化させていこう、という趣旨のものです。
―市営地下鉄などの黒字事業を民営化する、というのが、私たちには意図がくみ取りづらいのですが、どのような考えがあるのでしょうか。
たしかに、民営化については、地下鉄などの黒字事業も含まれており、「黒字事業を民営化すると財政に悪影響を与えるのではないか」という危惧をしている方もいらっしゃいます。しかし、逆に、地下鉄をこのまま持っていては、「公共サービスだから」というしがらみが多く付きまとってしまい、経済を活性化させることを阻害してしまう恐れもあります。JRは、民営化をしたことにより、例えば駅内の施設が充実をしていくなどの、駅周辺部の活性化、商圏の拡大が行われたことにより、大きな発展につながりました。それを大阪市営地下鉄でもやろう、ということなのです。さらに、株式を上場することにより、6000億円程度のアセットバリューが出る、と言われているので、そのような株を担保に、より効率的に投資をすすめ、サービスの向上を図ろうとしているのです。
別の背景として、大阪の市営業務において、労務面での問題が大きくあったわけで、それも、悪い、という意味ではなく、良すぎる、という意味においてです。かつては、バスの運転手で退職金として2000万円程度をもらっていた、という話もありました。もちろん、いまでは大幅に是正こそされているものの、例えば実務をまったくやっていなくても労働組合の仕事をやっていれば給与をもらえる、というようなことも多くあり、経済的には同規模程度の横浜などの都市と比べても、職員の数が圧倒的に多いのです。このような面も、経営を民営化することにより適正に合理化、スリム化できるのではないか、という狙いもあります。
―「カジノ政策」と言われることもある、統合型リゾートについては、具体的にはどのようなものなのでしょうか。
大阪維新の会の中で推進していることの一つとして、「統合型リゾート」という計画があります。統合型リゾートとは、会議場やホテル、カジノなどが一体となった施設のことで、マカオやシンガポールでは多数の観光客の集客に成功しています。しかし、マカオなどはカジノのイメージが強く、これらを引き合いに出すと、多くの方が「大阪にカジノを作って治安を悪くしてしまうのではないか」と誤解してしまいがちですが、我々が目指しているのは、ラスベガスのようなコンベンションシティーです。
実際には、シンガポールのマリーナベイサンズです。マリーナベイサンズは、シンガポールのマリーナ・ベイに面した、ホテルリゾートとコンベンションセンターが一体となった施設ですが、こちらには8000億円程度の投資がなされました。大阪の統合型リゾートの投資についても、構想段階で10社程度の投資の話が来ているそうです。このような会社の投資に加え、統合型リゾートに来る観光客数の増加、カジノ利用者などだけでも、おおよそ1兆円程度の経済効果が見込めます。ただ、このような場合でも、二重行政であれば、権限は大阪府が持っており知事に認可を取らないといけないが、土地は大阪市が持っていて市長と交渉しなければならない、と、二度手間になってしまい、スピード感を持って動くことが非常に難しくなるわけです。
―先ほどから経済効果のお話が良く 登場しますが、自民党と維新の会では経済効果の金額の数値が大きく異なっていますが、その理由はなぜでしょうか。
経済効果への数値については、自民党がほとんど無い、維新の会が2800億円程度の数値を試算として出しています。これは、単純に、地下鉄民営化などの、都構想と同様に推進していく改革の数値を含めるか含めないか、という点で、大きな数値の差が生まれています。 自民党らは「都構想と民営化は別問題である」と考えていますが、維新の会としては、都構想と民営化は一体として推進していくべきことであると捉えていますし、民営化した株式の特別区の割り当てなど、都構想と密接不可分な部分がどうしても改革の中で存在します。
ただし、この2800億円というのも、改革による節約効果、という部分でしかありません。波及的な経済効果については、様々に推測をされていますが、この数値よりもはるかに大きなものになると考えていま す。なので、このような節約効果の数値には惑わされないでいて欲しいと、強く願っています。
自民党などは、「都構想を実現していく中で新たに役所を作るのか」などと言っているようですが、そのようなハコ(ハード)については既存の物を用いながら、人を含めた中(ソフト)の変革を、より進めていくことが必要であるといえます。特に、大阪に広域の意思決定を行う仕組みを作って、空港、港湾、道路などといった陸海空を一体化させながら交通インフラの整備を行っていくことが、経済が発展する必要条件であると考えています。これらを決定し、運用していく強い推進力が、必要になると考えています。
―特別区に分けた際に、「教育や医療について、細かなサービスが行き届かなくなり、結果として住民サービスが低下する」という声がありますが、それについてはどうお考えですか。
ローカルの面については、橋下さんが市長になってから、限られた教育の予算の中で教育水準を伸ばそうと頑張っていました。しかし、やはり大阪市全域となると、きめ細やかなサービスが出来ないのが現状です。そのため、特別区を定めることで、それまではネックだった部分が大きく解消されるのではないか、と考えています。 医療や福祉の部門でも、二重行 政、という面が大きく足を引っ張っています。お年寄りの介護などの分野については、地域で密にコミュニティとして対応をしなければ、全ての人に行き届いた福祉サービスを提供するのに、いくらお金があっても足りません。そのような部分は、まだまだ大阪が力を入れなければならない点です。現状では、市立の病院と府立の病院は別の管轄であるため、相互で医療や介護のサービスを受けるために多くの手続きを経る必要がありました。そのため、これらを経営統合することで、患者が相互にサービスを受けられるだけでなく、それぞれの医師や看護師の研修制度なども充実し、研究もよりやりやすくなります。
また、大阪市は生活保護の対象者が大変多く、市として、毎年750 億円程度を負担しています。このようなサービスも、ただお金を使って闇雲にやるのではなく、地域の中で、「本当に必要な人にだけ」予算を使うようにして、不正にもらっているような人や、働く能力のある人などにはお金という形以外で対応をすることが望ましい、というのは、 誰しもの思いでしょう。
そのように、特に大阪市、については、大きく舵を切る方が、「本当 に医療・介護の必要な人にサービスを提供できる」という点で良いと考えています。高度先端医療は、医療機関同士の連携や教育機関との連携が必要不可欠、という点で、広域的な事業だと言えます。大学との共同研究や、医療機器を扱っている中小企業との共同開発などの工業化のプロセスを経 る中で、例えば現在500万円するような手術についても、海外の富裕層で必要としている方などに十分に行き届かせることが出来れば、そのお金をさらに医療の発展に使う、ということも可能です。
もちろん、大阪都構想を行ってすぐに劇的に変わる、ということはないかもしれません。しかし、今までの区役所の機能は残しますし、都がやることと区でやることで住民サービ スが著しく悪くなることはありません。また、今まで先導をしていたのが市長というくくりであったのが、特別区の代表にかわる、ということで、各特別区における選択肢は多くなると考えています。
―最後に、学生に何かメッセージはございますか。
まずは、あたりまえの事ですが、学生が参画し、投票してほしいですね。昔の学生運動のように先鋭化する必要はありませんが、権利を持っている学生は、自分たちの将来に直接 かかわるような重要な変化に興味を持ち、権利を行使すべき、という思いが第一にあります。
私たちは経済人なので、そのような立場から言わせていただくのであれば、どうすれば大阪の未来の経済がしっかりと活性化するのか。それも、ただただ一過性の盛り上がりではなく、それぞれの歯車がしっかりとかみ合った形で回っていくのかどうかが問題です。そういう点は、やはり学生にとっても重要です。学生自身で起業をする、ということもあるでしょうし、大企業や中小企業に 勤める、ということもあるでしょ う。どちらにしても、パイが大きくならないと、学生自身に選択肢が増えませんから、学生にとっても、経済については、より関心を持っていただきたいです。
現在では様々な場所で情報が発信されているので、ホームページの一つでも見れば、多くの情報が手に入るかと思います。繰り返すようですが、都市の発展・地域の発展は学生の皆さん自身の未来に関わっているので、これらの情報を調べ、咀嚼していく中で、「今までのままで良いのか、変える方がよいのか。どちらがより良い大阪になるのか」ということを自分の頭で考えて、投票を行ってください。
更家 悠介(さらや ゆうすけ)
1951年生まれ。1974年、大阪大学工学部卒業。1975年、カリフォルニア大学バークレー校工学部衛生工学科修士課程修了。1976年、サラヤ株式会社入社。1989年、日本青年会議所会頭。1998年、代表取締役社長に就任。NPO法人エコデザインネットワーク副理事長、ボルネオ保全トラスト理事などを兼任。