その点については、まずその様な議論をしている日本の方々に訊いてみなくてはなりません。彼らがどの様な意図や目的でその様な議論をしているのか、ということです。
ロシアは、今まで繰り返し平和条約交渉を進めるための合理的な提案を行ってきました。私も参加した2018年の東方経済フォーラムにおいては、プーチン大統領が前提条件なしに平和条約を締結することを提案しましたが… 日本には日本の立場があるのでしょう。 残念ながらそれは実現に至りませんでした。
2018年11月には、プーチン大統領と安倍首相とのシンガポール合意があり、1956年のソ連と日本との共同宣言に基づいて平和条約交渉を加速させることで合意しました。
ここで読者の皆さんに2つの点を思い出していただきたいと思います。まず第一に、共同宣言の第一条にある目的の部分です。そこでは1)戦争状態の終結 2)善隣友好関係の樹立 3)外交関係の再開が謳われています。この共同宣言は、両国によって批准された法的な文書であり、今日の露日関係の基礎になっています。正常な善隣友好関係の樹立が謳 われており、幸いなことに 65年の間、概ねその様な方向で両国の関係が発展してきました。
第二に共同宣言では、平和条約の締結において小クリル群島について触れられています。この文書は、古い時代のものなのでシコタンやハボマイという名称が使われています。
質問にもあった通り、私たちは、まず持って平和条約の締結交渉を行っています。しかし、目指すべきものは、単なる平和条約ではありません。繰り返しますが、戦争状態はすでに終結し和平はすでに確立されています。1956年の共同宣言により、両国の戦争状態は終結しました。日本の同盟国がいくら押し付けようとしても、ロシアと日本の間に軍事的対立はないのです。
ですから平和条約とは言っても、ラヴロフ外相がいみじくも指摘している通り、「最後の銃声が響いた翌朝」の様な条約ではないのです。最後の銃声が響いたのはもう70年以上も前のことです。両国の関係はそれ以来とても良い関係が続いています。
私たちが締結しようと考えているのは、単なる平和条約ではなく、より幅広い包括的な協力に関する条約です。ロシアと日本が65年にわたって蓄積してきたポジティブな経験、相互尊重に基づく相互協力の経験を生かしたものになるでしょう。
例えば最近の例だけを挙げてみても、日本が対露 経済制裁に参加したことによる貿易額の減少は、再び増加傾向にありますし、安全保障分野における対話も 防衛大臣と外務大臣を含めた「2+2」という形で新しい段階を迎えています。アフガニスタンの麻薬流通の阻止という点では、アフガニスタン国内にしっかりとした対策機関を創設することで両国は協力しています。経済分野においても、マツダがウラジオストクでエンジンを生産し、それを日本で使うという様な、生産チェーンの新しい試みが見られます。
また文化面においても、コロナで多くのイベントが延期とはなっていますが、ロシア日本交流年をはじめ、地域交流姉妹都市年もあります。毎年、日本では、ロシア文化フェスティバルが開催されロシアにおいても同様です。
両国関係は、とても良好なのです。ですからこれから結ぼうとする平和条約においても、その様な経験を生かして更にその経験を発展させていく様な内容にしなくてはなりません。他にも両国が関心を抱く問題があれば、平和条約の締結後に追加的に議論すればよいのです。
日本では、2島や4島といった議論がなぜあるのかという質問にお答えするならば、おそらくその答えはあなたもご存知でしょう。残念ながら、いま世界で一般的に受け入れられている第二次世界大戦の結果を、日本が受け入れていないところがあるのです。この問題は、日本のパートナーの皆さんにとって非常に繊細な問題と承知していますが、私たちは、客観的かつ冷静に状況を判断しなくてはなりません。
ソ連は、アメリカとイギリスと云う同盟国と共にナチス・ドイツに対して断固として戦いました。日本はイタリアとともに、残念ながら、ナチス・ドイツの同盟国でした。この構図こそが、ソ連、アメリカ、イギリス、そしてフランス、中国という連合国が日本に対してとった行動を決定付けているのです。これは、今日の日本ではなく、あくまでも当時の日本に対してと云うことですが、連合国のとった行動は、その後の国連憲章にも反映されています。
最近、ある日本の同僚と話しているなかで 彼は、どうしてロシアは日本を批判するのかと訊いてきました。「日本は、確かにドイツの同盟国ではあったものの、ホロコーストの様なナチスが行った野蛮な行動はしていないじゃないか。」と言うのです。しかし日本は、ホロコーストを行った国の同盟国でした。同じことなのです。ナチスは、ホロコーストのみならず、スラヴ諸民族の絶滅と云う野蛮な考え方も持っていました。当時の日本は、これに異議を唱えることなく、逆に同盟関係を結んだわけです。非常に残念なことです。
ですから 戦争の終結と共に日本は、然るべき結果に直面することになりました。日本は、その様 なソ連の感情も理解しなくてはなりません。2600万人の戦死者を出し、国家資源の3分の1を失い、ヨーロッパ部の国土が灰燼に帰したのです。これは、とても大きな喪失であり それを忘れることはできません。
一方で私たちは、南クリルに関する日本社会の感情も理解しようと努めています。ですから、かつて日本の領土であった南クリルについては、ビザなし訪問やお墓参り、ロシア領海における日本漁船の操業などの 措置をとっています。
私たちは、日本社会にある感情を理解しようとしています。ですから日本の皆さんにも、私たちの感情を理解しようとしていただきたいと思っています。